vol.2アパルタメントの窓

 

私が暮らすアパートは、ボローニャの中心にある。
イタリアはどの町もたいてい町の中心に、古い建築
物が綺麗に保存されている。何世紀も前に建てられ
た大きな大きな建物。かっこいいのはその建物を、
オフィスやアパートなどとして実際に使っていると
ころ(日本ならきっと、関係者以外は立入禁止とか
ってするでしょう?)。私の家は、イタリアにはよ
く見られる外観は築数百年、でも中は新築のように
明るくて開放的なレスタウラートというタイプのも
のだ。

   

 

大きな木の表門を開けると、黒いれん鉄の内門が
あり、その向こうにみっつの建物を囲むようにし
てパティオが見える。階段の踊り場の窓からはこ
の中庭や、正面の建物のラズベリーレッドの壁、
そこに光が差し込んであたたかい空間を作ってい
るのが昇り降りの度に見え隠れする。昔の誰かも
同じように、この窓からパティオを眺めたのかな。
家から大通りに出るまでの古い石畳の路地には、
同じような古い建物がひしめきあい、夕暮れにな
るとその窓にやわらかい明かりが灯りはじめる。
ひとつの建物に並ぶいくつもの同じ窓。その窓の
ひとつひとつに、ひとりひとり違う生活があるこ
とを想像すると、なんだか古いイタリア映画を見
ているようでドキドキする。

それぞれの窓の内側で、誰かはきっと恋をして、
誰かは顔を洗って歯をみがき、誰かは歌をうた
いながらお料理してるはず。
イタリア語で窓のことを『ラ・フィネストラ』
といい、映画のタイトルや歌の歌詞にもよく使
われている。これはひとつに細長い木枠の窓か
ら見える、ゆがんだ中世の町(手作りの古いガ
ラスは表面の厚みが均等じゃないから景色がゆ
がんで見える )が、窓というものをこんなに
も色っぽい存在にしているからだと思う。
イタリアは大人の国だ。

   

 

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