vol.5仮面のお祭り

3月初旬はカーニヴァルの季節だ。イタリア中の
あちこちで様々なお祭りが開催される。お菓子屋
さんの店先にはカーニヴァルのお菓子が並び、通
りや広場で時々、紙吹雪が舞う。私が暮らすボロ
ーニャでも子供のお祭りがある。一世一代の晴れ
舞台とばかりに子供たちは着飾り、小さなかわい
い手で、楽しそうに紙吹雪を投げる。彼らをのせ
た恐竜や動物のはりぼてをしたトラックは、広場
や町を走り、ほほえましい光景を見せてくれる。

 

春を待ち望むある寒い午後、私はヴェネツィア行き
の列車に飛び乗った。パドヴァのあたりからすでに
中世の衣装に身を包んだ人たちが乗り込んでくる。
ドレスに羽飾り、手に持ったマスケラ。ヴェネツィ
アのカーニヴァルではみんなが仮面をかぶる。
サンタルチアの駅で水上バスに乗り換えた。夜が降
りてきて魔法にかかった運河の町。ギィ〜。ゴトン。
ゴンドラが水の上で揺れる。ギィ〜。ゴトン。規則
正しく、時に不規則に。広場は仮装した人たちであ
ふれかえっていた。男も女も。大人も子供も。
仮装してない人は、少しでもカーニヴァルの気分を
楽しもうと顔に絵を描いてもらっている。マスケラ
(仮面)のような模様。金や銀を使った幾何学的な。
それでいてもの哀し気な。

この不思議な仮面のお祭りは、18世紀に始まった
らしい。そのころヴェネツィアでは6ヶ月間も狂気
じみたお祭りが続いていた。聖堂も広場も運河もす
べてが「劇場空間」となり、大衆も貴族も仮面をつ
けて楽しんだ。仮面によってあらゆる差別が解消さ
れるからだ。仮面によって、自分が自分でなくなる。
どうりで誰もが映画俳優のように振る舞ってるわけ
だ。カメラをむけると皆、なりきってポーズをとっ
てくれる。もしかしてこのお祭りは、ヴェネツィア
のカーニヴァルは、ただ観るだけよりも、衣装と仮
面をつけてなりきったほうが楽しいはず。絶対!

  

 

Copyright(c)2003 AKIKO TSUBOBAYASHI All Rights Reserved.
●許可無く複製転載する事は法律に触れます。

LA DOLCE VITA TOP

LA PROSSIMA PAGINA
次のページへ